「塔」

2、噴水
鉄の扉をゆっくりあけていく。
それとともに光と、そして音が灰色の無機質な部屋に入り込んできた。
目が光に慣れるまで時間がかかる。
なにか水の流れる音がする


・・・


目を細めながら外の様子を見ると外は霧がかかったようにもやが出ていた。
部屋を出たところは広場のようになっており広場の真中には四角いプールのような池があり、その真中には噴水が勢い良く水を噴き上げていた。
自分の部屋の並びにも同じようなドアがあり、部屋が10ほど並んでいた。
開いているドアもあったし閉まっているドアもあった。
部屋の中は暗くてよくわからなかったが、多分同じような部屋だろう。
また、噴水の向こう側にも部屋が並んでいるようで、部屋の並びが2つあり、それが噴水をまんなかにして向かい合っているようだった。


一歩出てみる。とりあえずドアは開けたまま、いつでも戻れるように。


噴水が勢い良く水を噴き上げている。
長方形の真っ白い白い縁石で囲ったプールのような池の真中に、一本の水柱が噴き上がる噴水があるだけ。
何の緩急もなく、ただ同じ力で水を噴き上げつづける。
水はまったくの透明。池は底が見えないくらい深く、水の色は深い青だった。
なにが動力なのかはさっぱりわからないが池の奥底から盛り上がるように一本の水の柱が立っている。
空気がひんやり湿っているのはこの噴水のせいだろう。
この無機質な池から水が噴き上げられ、再び池に落ちてくる前に霧の様になって空気に溶け込んでいくからだ。


噴水に見とれているとすこし眠くなってきた。
噴水の向こうに見え隠れする人らしき影が気になる。
さっきからボーダー柄の長袖シャツを着た人が噴水の向こう側でうろうろ歩いている。
だれだろう。
同年代くらいの男の人のようだが噴水の音と霧でわからない。
ただ、それを確認するよりも、眠いことのほうが重要だった。
あけておいたあのドアに戻り、部屋に入ってドアを閉めた。


ばたん、とドアを閉める。


鍵が無いのが少し不安だった。
でも猛烈に眠い時は何も出来ない。
鍵のことは後回しにしてただベッドによこたわって目をつむるだけ・・・






起きたらいつもの自宅の部屋にいた。
外はいつもの「夏」だった。


[つづく]